ミルクピッチャーについて

 

ミルクピッチャー(Milk Pitcher)はミルクジャグ(Milk Jug)ともいい、ステンレスで出来た製品が、カプチーノやカフェラテを作るのに使われています。




ピッチャーもジャグも意味としては全く同じ(取っ手が付いた水差し)なので、呼び方はどちらでも問題ありません。日本ではミルクピッチャーと呼ぶ人の方が多い気がしますが、英語圏ではジャグの方もわりと多いと思います。(しかしシアトルの大手エスプレッソサプライ・メーカー、ラトルウェアの公式ホームページの表記はPitcherです)

 

形状は、このような形です。

 

 

特徴的なのは、

 

  1. 底面が丸くなっている。
  2. 注ぎ口が嘴(くちばし)のように尖っている。

 

の2点で、これこそが「ラテアートがやりやすい」形状でもあります。

1はスチーム時にミルクのきれいな回転(対流)を生み出し、2はミルクを注ぐ際に注ぐ太さの調節がやりやすく、狙ったところにミルクを注ぎやくなっています。

 

実はラテアート教室をやっていると、生徒さんからすごく頻繁に出てくる質問が、

「これって、100均の計量カップとかじゃダメなんですか?」というものです。

 

正直言いますと、出来ます。が、耐久性に問題があります。それと、100均の計量カップはプラスチック製のため、スチームの際に胴体部分を手で触っても温度が把握しづらいです。また、底面が丸いわけではないので、スチーム時にミルクを綺麗に対流させる難易度が少し上がります。

昔はラテアートに向いたミルクピッチャーを購入しようと思えば、イタリア製の高いブランド品しか手に入らないものでした。しかし最近は、様々なメーカー、様々な値段のものがネット通販で手に入ります。

 

それにミルクピッチャーはエスプレッソマシンやグラインダーと違って「故障する」ということがありませんし、一生使えるものですから、買って損はしないと思います。

高いものは1万円超えですが、多くのものは数千円ですから、めちゃくちゃ高価というわけでもないですしね。

 

 

ミルクピッチャーの選び方。おすすめは?

 

こちらもよく出る質問です。「オススメのミルクピッチャーはありますか?」というものです。

身も蓋もない言い方をしてしまうと、「好みです。」という回答になります。

 

うちのお店には現在10種類ほどありますが、「これが使いやすい」という意見は、スタッフによってバラバラです。

 

それぞれ手の大きさや力の強さが違いますし、ピッチャーも注いだ時の感覚が微妙に違いますので、まぁ当然といえば当然と言えます。

さらに言うと、最終的にはピッチャーの種類より、慣れや技術の方が高いウェイトを占めます。

極端な話、世界チャンピオンクラスの人なら100均の計量カップでも美しいリーフを描けますし、技術がない人なら世界チャンピオンが使っているピッチャーを使ってもミルクを浮かばせることすら出来ないと思います。

 

ただ、「技術次第ですから何でもいいです。」で片付けるのはあまりに乱暴なので、ここでは

① サイズ(容量)で選ぶ
②  形で選ぶ
③ 持ち手で選ぶ

の3つの観点から、 選び方の参考になる情報を掲載します。

 

① サイズ(容量)を選ぶ

 

現在、主に流通しているミルクピッチャーは、12ozと20ozの2サイズです(oz=オンス)。
それぞれSサイズ、Mサイズだと思ってください。この上のLサイズ(32oz以上)もありますが、一部シアトル系のカフェが店舗で使用するぐらいで、少なくとも家庭用マシンには大きすぎます。

ml(ミリリットル)で正確な数値に換算すると、12ozと20ozは それぞれ約340mlと567mlですが、このあたりはメーカーによって曖昧です。(例えばラトルウェアの20ozは650mlぐらい入ります)

大まかな表現ですが、12ozは缶ジュース1本分ぐらいの容量。20ozはペットボトル1本分が入るぐらいの容量と考えるとイメージが湧きやすいかもしれません。一般的なカプチーノカップなら、12ozが1杯用、20ozが2杯用です。

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(写真左:ラトルウェア12oz 写真右:ラトルウェア20oz)

 

さて、どちらを買うか、ですが。

 

家庭用のエスプレッソマシンで作る分には、12ozの方がお勧めです。

ミルクピッチャーでミルクをスチームする際は、ミルクをピッチャーの深さの1/4~1/2まで入れるのですが、家庭用のエスプレッソマシンだと、20ozのピッチャーで1/4の深さにミルクを入れると、ノズルの先がミルクに届かないこともあります。届かせようと必要以上にミルクを入れれば、当然ミルクは余ってしまいます。

それに、家庭用のマシンは業務用のマシンに比べてパワーが弱いですから、スチームにも時間がかかります。スチームのパワーが弱ければ、大容量のミルクをきれいに攪拌させることも出来ません。

「ラテアートのやりやすさで言えば、20ozの方がやりやすい」という人もいます(僕もそうです)。

ただ、マシンに合わなければ意味がないわけですから、まずはマシンに合ったサイズのピッチャーを選ぶことが第一かと思います。

(家庭用エスプレッソマシンでも、ある程度パワーがある機種であれば、20ozのピッチャーも十分に対応できることは付しておきます。)

 

 

店舗で使う、という方でしたら、20ozの方がお勧めです。こちらに関しては、完全に「大は小を兼ねる」という考え方です。

現実的な話として、店舗で営業していると、カプチーノが2杯以上同時にご注文が入ることはよくあるケースです。こういう時、12ozで一杯づつ作っていたら、単純に提供時間が倍以上変わります。早い話が、「20ozじゃないと仕事にならない」というわけです。もちろん、12ozも併用することは選択肢ですが、最初に一本買うなら確実に20ozです。

 

② 形で選ぶ

形に関しては、僕は大きく二つの形に分類されると考えます。「イタリアタイプ」と「シアトルタイプ」です。

イタリアタイプの代表選手はメプラ。シアトルタイプの代表選手はラトルウェアです。

 

 

どこに一番大きな違いがあるかというと、ピッチャーの中心から注ぎ口の先までの距離感です。

 

シアトル系とイタリア系のピッチャーの距離

 

右がメプラ(イタリアタイプ)。左がラトルウェア(シアトルタイプ)です。

ラトルウェアに比べて、メプラの方が注ぎ口が突き出ていて、ピッチャー中心からの距離が長いことが分かると思います。これによって、ミルクを注ぐときにシアトルタイプの方が、よりミルク液面までピッチャーを近づけることが出来るので、フリーポアで細かい絵柄が描きやすくなります。事実、傾向としてイタリアタイプのピッチャーを使うイタリア系バリスタさんはあまり凝ったフリーポアはやらずに、ハートやシングルリーフが中心です。ウィングチューリップや、リーフを2本3本と組み合わせるようなフリーポアをやるバリスタさんはシアトル系に多く、ピッチャーもシアトルタイプのものを使っている人が多いです。

 

注ぎ口の形状は、シアトルタイプの方がより鋭角で細いミルクが注ぎやすくなっています(イタリアタイプだと出来ないというわけではないので、誤解のないようにして下さい)。

 

横から見た形状としては、シアトル系の方がより円筒形に近いです。イタリアタイプは全体が丸みを帯びている形状が多く、スチームの際にミルクの対流を作りやすくなっています。

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このあたり、「自分がどういったラテアートをやりたいか」にも関わってくるかもしれません。ちなみに僕が愛用しているのはメプラです。

 

 

③ 持ち手を選ぶ

ピッチャーにはいくつかの持ち方があり、その持ち方によって、持ちやすい形状のピッチャーというのが浮かんできます。

 

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こちらはしっかり握りこむスタイル。通称「ガチ持ち」。シアトル系のバリスタさんに多いタイプの持ち方です。アスリート感あります。
ラテアート世界チャンピオンの澤田洋史さんもこの持ち方ですね。

この持ち方をしようとすると、ラトルウェアのようにハンドルの上部が広くなっていたり、また、ハンドル自体が大きく作られていて、中に指が入りやすい形状ピッチャーの方が持ちやすいです。握りはしっかりしていますが、手首は柔らかく使わないと綺麗なリーフは描けません。

 

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こちらは通称「ペン持ち」。ペンを持つような握りで、イタリア系のバリスタさんに多いです。この持ち方をするには、メプラやアレッシィのように、イタリア対タイプに多い、ある程度ハンドルが湾曲しているピッチャーの方が持ちやすいです。

ガチ持ちに比べると手首の可動域は広いですね。

 

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こちらは、ハンドルフリーのピッチャーの持ち方です。手とピッチャーが文字通り一体化するので、手の動きをピッチャーに伝えやすいですが、扱いやすいか扱いづらいかは、正直手の大きさなどに拠るところもあり、個人差が大きいと感じます。このタイプを好んで使うのは、シアトル系のバリスタさんに多いです。

単純に、これで上手にミルクを注いでいる人を見ると絵ヅラ的に「かっこいいなぁ」と思います(個人的な意見です)。

 

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ペン持ちをした状態から指を開き、人差し指と親指でピッチャー本体をホールドするような持ち方。ハンドル、人差し指、親指の「3点持ち」とでも言いましょうか。ピッチャー本体との一体感もありますので、ハンドルフリーに近い感覚も得られます。ペン持ちと同じく、持ち手が湾曲しているイタリアタイプのピッチャーの方が持ちやすいです。

 

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変則的ですが、ある程度ハンドルが大きい20oz以上のピッチャーなら、このように手をすっぽりハンドルの中に入れて、ハンドルフリーのように持つこともできます。ただのハンドルフリーよりも、ホールドがかかりやすい気もします。

 

このように、「持ちやすさ」で選ぶもひとつの手かもしれませんね。

 

 

ミルクピッチャーレビュー

 

自分が持っている範囲で、ではありますが、各メーカーのミルクピッチャーの実際の情報について載せていこうと思います。

購入時のご参考になりましたら幸いです。

 

 

ミルクピッチャー ①【ラトルウェア(Rattleware)】 ~プロのバリスタも使用する定番~

ミルクピッチャー ②【メプラ(MEPRA)】 ~本場イタリアのバールで愛される逸品~

ミルクピッチャー ③【アレッシィ(ALLESSI)】 ~イタリアン・デザインのトップメーカー~

ミルクピッチャー ④【デロンギ(De’Longhi)】 ~家庭用コーヒーメーカーの世界的ブランド~

ミルクピッチャー ⑤【デバイスタイル(deviceSTYLE )】 ~高品質な家庭用ラテアートマシンメーカー~

ミルクピッチャー ⑥【ラトルウェア・ハンドルフリー(Rattleware)】 ~定番RWの持ち手無しバージョン~

ミルクピッチャー ⑧【澤田洋史×HARIO 】 ~世界チャンピオン監修ピッチャー~

ミルクピッチャー ⑨【ラトルウェア・テフロンコート 】 ~定番RWのテフロン加工~

ミルクピッチャー ⑩【ラトルウェア・口尖り加工 】 ~定番RWのフリーポア向け加工~

ミルクピッチャー ⑪【和田助製作所 】 ~これが国産の技術力の高さか!(いい意味で)~

 

購入先は、今はネットでかなりの種類が豊富に揃っています。数百円台の、あまりに安いものだと若干頼りない気もしますので、ある程度の値段のものがいいと思います。長く使えるものですしね。