焙煎(ロースト)とは

 コーヒーの豆は、焙煎前の生豆(「なままめ」。「きまめ」とも20言う)の状態では、クリーム色に近い、淡い緑色をしています。 (「生」といっても乾燥していますが)

  この時点では、苦味や酸味は殆どありません。香りもありません。

 

 ここから「焙煎」と呼ばれる、豆を焼く作業を行います。この工程の中で、あのコーヒーの独特の香味が生まれてくるわけです。

 

 コーヒーの成分は約1500と言われますが、その過半数に当たる800以上は香り成分で、その90%は焙煎することにより表に出てきます。  

 

 実に神秘的な作業です。   わかりやすく「焼く」と言いましたが、料理で言うソテーとかとは違います。「焦がす」でもなく、「炒る」(「いる」。「いためる」ではない。)とか、「焙じる」(ほうじる)というニュアンスが近いです。

 

  焙煎には、直火式や熱風式、半熱風式があり、熱源もガスや炭火などの種類によって、それぞれに個性があります。

 

 豆は焼かれるに従って色と味、香りが変化していきます。 最初は酸味中心の味わいになり、焙煎が進むにつれて甘味が出てきます。 そして甘味から苦味と味わいが変化していき、色も濃くなっていきます

IMG_9785 左:焙煎の浅い豆   右:焙煎の深い豆  

 

焙煎(ロースト)の8段階と化学変化

 日本では一般的に、焙煎度(ロースト)が進むに従って、

 

1. ライトロースト

2. シナモンロースト

3. ミディアムロースト

4. ハイロースト

5. シティロースト

6. フルシティロースト

7. フレンチロースト

8. イタリアンロースト

 

・・・と、8段階に呼び名が変わります。

  ロースト  

 上記のように、酸味と苦みは反比例の関係にあり、焙煎が進むにつれて酸味が減少し、苦みが強くなります。  

 


 

 焙煎初期では、約100℃ぐらいから豆に含まれたショ糖が熱分解され、有機酸が生成されて酸味が生まれます。ライトローストやシナモンローストの酸味は、これらに由来するものです。この酸味はミディアムローストあたりから急激に減少していきます。

 

  焙煎中期ではメイラード反応が起こりはじめ、155℃前後で最も顕著に現れます。これは糖とアミノ化合物が熱反応によりメラノイジンに変わる作用で、簡単に言うと「色が褐変する(茶色くなる)」「様々な香気成分が生まれる」の2つです。この段階で、コーヒーの複雑なアロマが最も生成されます。同時に、スペルミン、プトレシンなど、青臭さを生じて風味を損ねる物質が分解されていきます。リンゴ酸やクエン酸といった、酸味を感じる物質の熱分解も起こり、酸味が減少していきます。 165℃に達するとクロロゲン酸がカフェ酸とキナ酸に分解します。カフェ酸は独特の香りを持ちリラックス効果を生み、また、ガンや動脈硬化を予防するとされています。キナ酸は膀胱炎などの尿路感染症や、アルツハイマー病の予防に効果があると言われています。

 

 焙煎後期では160℃~200℃の間でカラメル反応が起き特に180℃前後が最も強く進みます。これは糖が炭化していく作用で、「色が褐変する(茶色くなる、さらには黒くなる)」「香気成分が生まれる(進行すると焦げ臭になる)」「苦みが生まれる」の3つです。いずれも深煎りするにしたがって見られる現象ですね。    


 

   一般に、エスプレッソに使われる豆は「深煎り」と言われ、8段階の焙煎度で言えば一番深い「8.イタリアンロースト」がエスプレッソに最適だと思われがちです。

 

 しかし実際には、イタリアスタイルのバールで使われる豆は、「5.シティーロースト」や、「6.フルシティーロースト」が多いです。日本では酸味のあるコーヒーは敬遠されがちですが、欧米では適度な酸味は旨味の重要な要素として認識されている味覚の違いもあります。エスプレッソには、「酸味・甘み・旨味・苦味・ボディ」のバランスが求められるわけです。

 

  一方、スターバックスに代表されるようなシアトル系のカフェでは、「7.フレンチロースト」や、場合によっては「8.イタリアンロースト」まで焙煎した豆を使うこともあります。これは、シアトル系カフェでは、エスプレッソをストレートで飲むのではなく、ミルクで割ったりフレーバーシロップを使ってアレンジすることが多いため、それに負けないコーヒーの存在感が必要になるためです。  

 

 イタリアスタイルなのに「イタリアンロースト」を使わず、逆にシアトルスタイルなのに「イタリアンロースト」を使う、ということに違和感を感じるかもしれませんが、これはこの8段階の焙煎度呼称が、エスプレッソに対する理解がまだあまり進んでいなかった時期に、「深煎りの豆=エスプレッソ向き=イタリアン」という風に名付けられてしまっただけの話です。

 

 自店や自分の好みに合った豆、ブレンド、ローストを色々と試行錯誤してみましょう。    

 

欠点豆について

豆には、欠点豆と呼ばれるものが混じることがあります。 IMG_9795

 

  もともとは割れ豆、欠け豆、発酵豆やカビ豆、未成熟豆に貝殻豆などですが、こういった豆は酸味やエグミの元となるほか、焙煎の際に焦げやすいので、強い苦みを生んだりします。これらはローストすることで目立ったり、ロースト自体によって生まれたりする豆です。

 

 生産者の方でもハンドソーティング(ハンドピックとも言う。手作業で欠点豆を選別すること。)や電子選別機を導入し、大手ロースターでは照度センサーなども用いて欠点豆を取り除く工程が組まれていますが、それを潜り抜けてしまうものも存在します。

 

 あくまで一般論ですが、市場流通豆の10%ほど欠点豆が今夕しているといわれます。

 

 僕は昔ロースター(焙煎業者)で働いていたこともあるのですが、当時はまだ今ほどスペシャルティコーヒーに見られるような高品質豆の生産や、産地の品質管理も進んでいなかったので、欠点豆の混入は、なおのこと珍しくありませんでした。石が入っていることもあります。現在は産地農園での選別技術も向上していますが、コーヒー豆が農産物である以上、豆が不揃いであることは当たり前のことです。

 

 エスプレッソ7gの豆は、だいたい50粒~80粒ぐらいかと思います。ハンドドリップと比べれば使用する豆量は少ないですから、1粒の欠点豆が与える影響は、存外にあります。

 

 もちろん、欠点豆が混じっていても飲めないわけではありませんが、あまりに欠点豆の混入率が多いようでしたら、ホッパーに入れる前に一旦広げて取り除くなり、豆の銘柄を変えるなどもひとつの手です。    

 

豆の飲み頃

 次に、焙煎後の豆の飲み頃についてです。  

 コーヒーは「煎りたて」「挽きたて」「淹れたて」が最も美味しいと思われがちですが、ことエスプレッソに関していうなら、「煎りたて」は必ずしも正解ではありません。 (「挽きたて」「淹れたて」が美味しいのは間違いありません。)  

 

 焙煎直後の豆は、1週間ぐらいかけて炭酸ガスを排出します。   「焙煎直後の豆は抽出に向かない」というのはこのためです。 

 

 焙煎直後の豆には、まだ多くの炭酸ガスが含まれているため、ガスがある程度出てからでないと、豆の風味も安定しません。炭酸ガス(二酸化炭素)はクレマの元にもなるものですので、「焙煎直後はクレマが出過ぎる」というのもこれが理由です。厚すぎるクレマはエスプレッソ全体の味のバランスを壊します。  

 

 逆に、「クレマが出なさすぎる」という場合は、抽出過程の問題も考えられますが、豆の鮮度が悪いことが一つの原因の可能性があります。古くなった豆や、挽いたあと長時間放置された豆は、酸化が進むと同時に炭酸ガスが抜けきってしまっていますので、クレマが出にくくなります。  

 

 冷凍保存や密閉便を利用するなど、保存環境にも気を配りましょう。

 

 「焙煎後一週間前後の、挽きたての豆」がエスプレッソに最も適したコンディションであることを覚えておきましょう。    

 

焙煎の楽しさを味わう

 最近は焙煎を自店で行う店舗も増えてきました。

 

 3キロ釜以上の業務用焙煎機になると、都市部だと排煙設備の関係で設置が難しいこともありますが、郊外に目を向けると個性あるお店が沢山あります。

 

 「焙煎はコーヒー豆との対話」と表現するひともいるぐらい、とても奥深く、コーヒー好きには楽しい作業です。

 

 家庭用サイズの焙煎機で、ご自宅で焙煎を行う人もおられます。 自分で焙煎した豆で淹れるコーヒーは、また格別なものです。  

 

 小型のものや、

  家庭用に排煙が少ないものも出ています。

 

カルディの出している焙煎機は、業務用と似たような基本構造をしており、コストパフォーマンスが高いです。まさに「コーヒーとの対話」を味わえると思います。  

 

 

こちらの機種「ジェネカフェ」は、最先端機種を謳っているだけあって、さまざまな電子制御機能がついており、相当に高機能です。 1度刻みの温度設定、6秒単位の時間設定、チャフ(外皮)の取り除きやドラムの構造など、こだわりのポイントが盛りだくさんです。

 

  ちなみに、とりあえず安く焙煎を試してみたいという場合は、元祖「手網焙煎」という手もあります。

 温度計すらついてないので、完全に勘と経験の作業になりますが、それだけにやりがいが味わえます。  

 

 生豆からのアプローチは、コーヒーに対する理解を一層深めてくれると思います。生豆も、今は1キロ程度の小ロットでネット購入することが出来るようになりました。昔は通常ルートだと麻袋(ドンゴロス)60Kg入りでしか買えなかったので、自家焙煎珈琲店などから分けて売ってもらうしかなかったのです。いい時代になりました(笑)。

 

 焙煎後の豆の変化を味わう贅沢は、コーヒー好きには一度体験して頂きたいものです。

焙煎はもちろん技術のいる作業ですが、焙煎後一番ベストなタイミングの豆を、挽きたて、煎れたてで、是非楽しんでみてください。