イタリアには、BAR(バール)と呼ばれる多くの喫茶店があり、その数は現在約16万軒と言われています。
人口約6100万人のイタリアに16万軒というのは、1万人あたり約26軒です。
この数字は近年減少傾向ですが、日本で人口あたりの喫茶店が最も多い高知県が1万人あたり約17.7軒。2位の岐阜県で同16軒、3位の愛知県で同15軒という数字と比較すると、イタリアのBARの多さには驚かされます。
世界中に支店を持つ「スターバックス」が、2016年に至るまでイタリアへの出店を見送っていたという事実が、イタリアBARの層の厚さを示しています。
「バールの向かいにバール、その隣にまたバール」なんていう風景が、当たり前のように街角に存在します。
それだけ店舗数があっても商売が成立するのは、それだけ消費が多い事も指しています。
コーヒー1杯で使う豆の量を10gとして換算したとき、イタリア人が1年に飲むコーヒーが577杯。日本人は340杯と言われています。365日で割ると、イタリア人が1日に1.5杯。日本人が1杯弱。
しかし日本人が飲むコーヒーは、ドリップ抽出されたコーヒー(1杯あたりの豆の量は通常10g)が最も多いです。
一方イタリア人は、”カッフェ”といえば、イコール ・エスプレッソを意味するぐらい、圧倒的にエスプレッソでコーヒーを楽しみます。エスプレッソに使われる豆は通常1杯7g程度。これで杯数を換算すると、イタリア人が1日に飲むコーヒーは2.3杯。つまり、イタリア人は実に日本人の倍以上の杯数を飲んでいる計算です。
BARの数が多いのは、単に「喫茶店」というだけなく、日用品や雑貨を販売する店舗もあること、文字通りアルコールを販売するBAR(バー)としての業態を兼ねることや、レストランに近い店舗もあるという理由もあります。
しかし、BARがイタリア人の生活に深く根付いていること、そしてイタリア人がコーヒーが大好きということは、間違いありません。
「フランス人の体には血液ではなくワインが、イタリア人にはコーヒーが流れている」という人もいる程です。
こうしたBARにイタリア人は足繁く通いコーヒーを楽しんでいます。
大人の男性ともなれば、「Mio BAR」(ミオバール:俺のバール)と呼ぶような行きつけのバールが数軒あって当たり前。
出勤前にいつものBARのいつものポジションで、いつものエスプレッソを飲みます。「ドッピオ(ダブルショット)をリストレット(少し抽出量少なめ)で」など、「俺流アレンジ」も決まっています。冗談じゃなく本当に毎日来ますから、バリスタも覚えていて、(あぁ、この人はドッピオのリストレットだな)と顔を見てすぐに作業に入るわけです。滞在時間は5分あるかないか。
イタリアでは、朝食はバールでエスプレッソor カプチーノと、ブリオッシュ(甘い菓子パン)で済ませる人が多いです。
そして出勤し、仕事。仕事が終わればまたBAR。・・・からの、夜ご飯を食べに行き、帰りにBARで締めのエスプレッソを飲んで帰宅、というようなルーティーンがあります。
こういう人たちはバンコ(カウンター)で立ち飲みです。バンコで立ち飲みするのは、座って飲むより値段が安いからです(座ると3倍ぐらい高くなります)。滞在時間も短いですしね。
テーブル席に座っているのは、おしゃべりを楽しみながらカプチーノを飲んでいる女性や観光客、読書をしているおじさんといった感じです。
朝は朝食や出勤前のエスプレッソで賑わうバールは、昼にはパニーニなどの軽食を出し、夜はカウンターにずらりと並べたタパスをつまみながらアルコールを一杯ひっかける店へと、その顔を変えていきます。一日中、エスプレッソの注文はコンスタントに入ります。
料理に力を入れるバール、ドルチェ(デザート)に自信があるバールなど、その特徴は様々です。
確かなことは、コーヒーが大好きなイタリアの国民性が、BARの文化を支えてえいるということです。