ドーシング(Dosing)とは、もともと薬の取り扱いで使われる言葉で、本来の意味は「一回分を盛る」という意味です。
つまり、1杯のエスプレッソを抽出するのに必要な量のコーヒー粉を計量する、ということです。
エスプレッソマシンに付属している「ポルタフィルター」と呼ばれる器具に、エスプレッソ用に挽いたコーヒー粉を入れる作業です。
既に挽いてある粉を購入するパターンの場合は、必要量を計って入れればそれで問題ありません。
以下は、グラインダーを使って豆から挽くパターンについて説明します。
やり方はバリスタによって様々ですが、手順としては…
① エスプレッソマシンからポルタフィルターを取り外し、前回の抽出時に使ったコーヒー粉(出し殻、コーヒーケーキ)を捨てます。(ポルタフィルターは、店舗の営業においては、フィルターの保温のために通常一回抽出したら次回の抽出までマシンに取り付けたままにしておきます。こうすることで、マシン自体の熱がフィルターに伝わり、フィルターが温かい状態で保たれます。)
② 次に、ポルタフィルターをグラインダーにセットし、グラインダーの電源を入れてコーヒー豆を挽いていきます。コーヒーは挽きたてがベストです。ドサーチャンバー(挽いた豆を一時的にストックするスペース)があるタイプのグラインダーならドサーレバーを引いて、ドサーチャンバーが無いタイプのグラインダーなら挽き口から直接フィルターに落ちてくる粉を受け止めます。
この時、グラインダーによって粉の落ち方にクセがありますので、粉を受け止めるフィルターの位置を微妙に調整したり、フィルター自体の向きを回しながら、全体に均一に入っていくように意識します。このように、フィルター内に粉をバランスよくドーシングしていくことを「ディストリビューション(分配)」と呼びます。
③ 1杯分に使う粉の7割がフィルターに入ったところで、グラインダーフォークでフィルターを叩き、下方向へのショックを与えて粉を沈めます(フィルターを傷めない、よりスピーディーに行いたいなどの理由で行わない人もいます。家庭用マシンだとフィルターの耐久性に問題があるのでやらない方がいいでしょう)。残りの粉を入れたら適切なタイミングでグラインダーのスイッチを切り、粉の挽き過ぎにならないようにしましょう。 挽きすぎた粉はチャンバーの中で劣化し、次の一杯のカップクオリティーを下げてしまいます。チャンバーが無いタイプのドサーレス・グラインダーなら、そのままロスに繋がってしまいます。
仕上げに、フィルターを横から手でトントンと叩いてフィルター内の粉の入り方を整え、ドーシングの完了です。
ドーシングにおいては、「バスケットの中にバランスよく粉を詰める」ことと同時に、ただ粉を盛るだけではなく「一杯分をきちんと計量する」という感覚で行うことが重要です。
そのためには、自分が理想とするエスプレッソ抽出に必要な一杯分の粉の量(グラム数)をフィルターに盛った時に、どのような山の形になるかを把握しておく必要があるでしょう。一般に、イタリア式であればシングルで7~8g、ダブルで16~20gの粉を使う場合が多いですから、一度その量の粉をきちんと秤で計量し、フィルターに入れてみるといいと思います。
抽出全体の流れを知っている人の中には、「このあとレベリングやタンピングをするんだから、そんなこと(ディストリビューション)は気にしなくて良いじゃないか」と思う方もいるかもしれませんが、レベリングはあくまで表面を水平にならす作業です。余計な力は加えませんし、あまり力を加えるとむしろフィルターバスケット内のコーヒーを必要以上に押し固めてしまい、かえって分配が不均一になります。
タンピングもあくまで垂直にまっすぐ押し固める作業ですから、バスケット内の粉があまりに不均一な状態ですと、そのままの形で押さえることになり、偏った抽出につながります。
粉をバスケット内全体に配分することは、文字通りドーシング時のディストリビューションによって、ある程度なされるべきでしょう。
ドーシングの動画を掲載しておりますので、ご参考までにご覧下さい。
ちなみに現在、日本バリスタ協会では、この動画のように「カチャカチャ」と何度もレバーを引く「連続ドーシング」は推奨していません。
理由は「人によってドーシングの粉量にバラつきが出来、エスプレッソの抽出が安定しないから」と、「単純に時間がかかるから」です。これは、日本バリスタ協会推奨オペレーションでは、このドーシングのあとに「粉を擦りきることで計量をする」という作業を行わないということもあります(このあとのレベリングの項目で詳しく説明しています)。
従って、バリスタ協会推奨オペレーションにおいてのドーシングは、「ドサーチャンバー付きのグラインダーを使用する際は、チャンバー内に常にある程度の粉の挽き溜めを行い、ドーシングレバーを決まった定数回(2回なら2回、3回なら3回)引くことだけで、決まった粉量を計量する」というものです。つまり一旦山盛りにして擦りきる、ではなく、ドーシングのみで計量を済ませてしまうわけです。
冒頭で述べました通り、ドーシングの意味が「1杯のエスプレッソを抽出するのに必要な量のコーヒー粉を計量する」であることを考えれば、理想形だと思います。
ただ、これをやるためには常にチャンバー内に最低1/3ぐらいは挽き溜めの粉があることが前提です。ある程度コーヒーが回転する時間帯や店舗ならそれでいいと思うのですが、そうでない店舗や家庭においては、必要以上のコーヒーを挽き置きすることはコーヒーの劣化(酸化)に繋がってしまいますので、連続ドーシングを行ってでも、挽く粉量を必要最小限にし、次のレベリングの動作ですり切り計量を行い、出来るかぎり挽きたての粉を使用した方が、結果的にカップクオリティの平均は上がると個人的には思います。
この辺りは、店舗それぞれの考え方があると思いますので、一概には言えませんが。