4つのM
美味しいエスプレッソを抽出するために必要と言われている「4つのM(クワトロ・エンメ)」というものがあります。
エスプレッソを淹れるためのセミナーなどに行くとよく聞く言葉なので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
4つのMは、それぞれエスプレッソ抽出において特に重要な4つの要素「Miscela、Macinino、Macchina、Mano」の頭文字のことです。
それぞれ、
1.Miscela(ミシェーラ)… エスプレッソの豆の品質とブレンドの配合が良質であるかどうかを指します。豆の品質とは、ロースト深度のことも含みます。通常イタリアン・エスプレッソでは、シティ~フレンチのローストが適正です。
2.Macinino(マチニーノ)…ミル・グラインダーのことです。転じて、1で用意されたエスプレッソの豆が、適正なメッシュ(挽き目)の細かさに調整されて挽かれているか。ということを指します。Macinato(マチナート)とも言います。
このメッシュ合わせの作業を「カリブレーション」と言います。バリスタにより好みはありますが、シングル1杯あたり約7gの豆が20秒~30秒かけて20ml~30ml抽出されるように合わせるのが適正です。
3.Macchina(マッキナ)… マシン・機械のことです。具体的にはエスプレッソマシンの能力が適正であるか(90度9気圧で安定した抽出を行う力を備えているか)ということです。メンテナンス状況なども含めた意味で捉えるべきでしょう。
4.Mano(マーノ)… 人の力のことを指します。具体的には、ドーシング、レベリング、タンピングといった一連の作業が高い技術で安定して行われるかというバリスタの能力です。広義の意味では、マシンやコーヒーに対する知識・理解はもちろん、グラインダーの調整能力やメンテナンスへの心配りなど、1〜3の全てを含んでいます。
以上の4つはどれも必要不可欠なものであり、その全てが高いレベルで調和して初めて、美味しいエスプレッソを抽出することができます。大切なことは、「たまたま上手くいった」とか、「奇跡の一杯」のようなことではなく、毎回安定して高レベルなものを抽出できるようになることです。
美味しいエスプレッソは同時に綺麗なクレマを持っていますので、ラテアートを描く際にも美しいコントラストを生み出してくれます。
美味しいエスプレッソを抽出することは、美しいラテアートを描くための出発点でもあるのです。
ドーシング
エスプレッソを淹れるための最初にする作業がドーシングで、ポルタフィルターに必要量のコーヒーを詰める作業です。
具体的な説明はこちらの記事をご覧ください。
レベリング
レベリング(Leveling)は、レベル(水平)の意のとおり、ドーシングで盛ったコーヒー粉の表面を、平らにならす作業です。
具体的な説明はこちらの記事をご覧ください。
タンピング
タンピング(Tamping)は、ポルタフィルターに詰めたコーヒー粉を、タンパーを使って押し固める作業です。
具体的な説明はこちらの記事をご覧ください。
抽出
タンピングが完了したら、いよいよ抽出です。
具体的な説明はこちらの記事をご覧ください。
エスプレッソの楽しみ方
エスプレッソは、コーヒーの一番美味しい部分をぎゅっと凝縮して抽出した、まさに「コーヒーのエッセンスの塊」です。そこには、旨み、甘味、酸味、渋み、苦味といった複雑な味わいと、芳醇なアロマを感じることが出来ます。
だからこそ、たったあれだけの量のドリンクがお金を頂けるだけの商品になり、たったあれだけの量にも関わらず、その何倍ものミルクで割ってもしっかりとコーヒーの味を感じることができ、これをベースに様々なエスプレッソドリンクが作られるわけです。
エスプレッソは、そのままでももちろん楽しむことができますが、イタリアでは砂糖をたっぷり入れて飲むのが一般的です。ティースプーンで2杯ぐらい入れる方が多いように思います。それを軽くだけかき混ぜて飲み、底に溶け残って溜まった砂糖をスプーンですくって、チョコレートのようなフレーバーを食べるように楽しむのが、イタリアにおけるエスプレッソの飲み方です。
エスプレッソシングル1杯に対して砂糖を5gほど(角砂糖1.5個位)入れるとビターチョコレート、10gほど(角砂糖で3個位)入れるとスイートチョコレートぐらいの甘さになると言われます。
適正に抽出されたエスプレッソは、しっかりしたクレマ(表面の泡の層)の厚みがありますので、そのクレマに砂糖が「乗り」ます。逆に言えば、エスプレッソに砂糖を入れて、それがすぐに沈んでしまうものは良い抽出状態とは言えません。
砂糖が一瞬「乗って」沈むくらいしっかりしたクレマが出来ていることは、いいエスプレッソの状態の目安のひとつです。
「エスプレッソは苦手だ」という方に話を聞いてみると、大抵はブラックで飲もうとしていらっしゃいます。日本では「コーヒー好きはブラックで飲んでこそ」みたいな風潮がありますが、「イタリアのエスプレッソは砂糖を入れて楽しむもの」というのが基本スタイルですので、是非砂糖を入れてみてください。
イタリアでは「カッフェ(コーヒー)」といえば、イコール・エスプレッソの事を指し、コーヒーの飲み方といえばエスプレッソが圧倒的に主流です。
一方で、アメリカでは、ミルクで割ったり、エスプレッソをお湯でのばした「カフェ・アメリカーノ」だったり、ドリップコーヒーが主流です。エスプレッソでは量が少なすぎて物足りないのもあるでしょう。シアトルを中心とした西海岸の労働者たちが、一日の疲れを癒すために飲むコーヒーとして、ある程度腹持ちのあるカフェラテが愛されたといわれています。テイクアウトが多いのも特徴です。
ラテアートはイタリア・ミラノで生まれたとされていますが、流行のきっかけとなったのは圧倒的にアメリカ(特に西海岸)です。このあたり、イタリアとアメリカとでエスプレッソ自体の楽しみ方の違いが影響しているといえるでしょう。
若干話は逸れますが、イタリアでは食後に飲む飲み物はエスプレッソです。
食後にカプチーノのような腹持ちのいいボリュームのある飲み物を頼むことは、「あなたのお店の料理ではお腹が十分満たされませんでした」という暗にメッセージとなるので、失礼な行為とされます。ですが最近は、特に観光地や主要都市では、日本人も含めた海外からの観光客がお構いなしに食後にカプチーノを頼むため、その認識は薄れつつ(というか諦められつつ)あります。一方、地方の田舎の方にいくと、まだまだそういう考え方の人もいますので、食後に頼む飲み物としては、是非エスプレッソを注文するようにしましょう。