エスプレッソ、カプチーノ、ラテアートの歴史

 「ラテアートとは?」というお話をするのに、まずそのベースになる「エスプレッソ」と「カプチーノ」の話から始めます。

 

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 「エスプレッソ(Espresso)」は、エスプレッソマシンを使い、極細に挽いたコーヒー豆に高い圧力をかけて急速抽出した、イタリア式の濃いコーヒーです。

 

 エクスプレス(急行)と語源を同じくしているように、「短い時間(作業に取り掛かってから約1分ほど)で抽出する」ことが、まず大きな特徴です。

 

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 2つ目の特徴は、「味の濃厚さ」です。一杯につき150ml程度を抽出するドリップコーヒー(日本の喫茶店で言う、いわゆるホットコーヒー)などと違い、エスプレッソの抽出量は一杯につき30ml程度。実に1/5しかありません。

 

 しかし、使用するコーヒー豆の量は、ドリップコーヒーが抽出量150mlに対して約10gの豆で抽出するのに対し、エスプレッソで使う豆の量は30mlの抽出に対して約7g。抽出量に対する比率で言うと、エスプレッソはドリップコーヒーの約3.5倍もの豆を使用します。だからこそ、少量でも十分に商品としての価値がある、濃厚な「コーヒーのエッセンス」を抽出することができるわけです。

 

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 また、エスプレッソは「急行」という意味の他に「特別に、あなたのために」という意味も含んでおり、「作り置きをせずに注文が入ってから一杯づつ、お客様のために抽出するコーヒー」である点も特徴的でしょう。

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 エスプレッソは、電気式のマシンを使わず、「マキネッタ」などの直火式抽出器具で淹れることも出来ます(厳密にはエスプレッソというよりモカ・コーヒーと言う方が正確な表現です)。

 下記の「ビアレッティ・ブリッカ」のように、機種によっては圧力弁が内蔵されているタイプもあり、濃厚なエスプレッソを淹れることが出来ます(きちんとクレマも出ます)。

 

 

 最近は高機能で安価なエスプレッソマシンが出て、家庭にも随分普及しましたが、一昔前ですとイタリアではどこの家にもマキネッタがあり、それを使って家でカフェを飲んでいました。

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 今も世界中に多くの愛用者が存在します。屋外での使用も可能なので、キャンプなどのアウトドア・ユーズにも便利です。

 

 

 




 

 歴史を辿ると、エスプレッソを抽出するための機械「エスプレッソマシン」は1901年、イタリアのルイジ・ベゼラによって発明されました。べゼラ(BEZZERA)は、現在もエスプレッソマシンメーカーとして製品を世に送り出しています。

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 このエスプレッソマシンの特許を1903年に買い取ったのが、デジデリオ・パボーニ。パボーニ(PAVONI)は現在、フォルムの美しいハンドルレバー式エスプレッソマシンで有名なメーカーです。

 

 

 パボーニは、1906年のミラノ万国博覧会でエスプレッソマシンを出展。その後エスプレッソは、現在は世界中に広まり、年間約250億杯が消費されていると言われています。

 

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 そしてそのエスプレッソに、蒸気(スチーム)を入れることで空気を含ませて温めたミルクを注いだ飲み物が、「カプチーノ」です。カプチーノは、パボーニがエスプレッソマシンを出展したミラノ万博あたりから提供されたと言われます。

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つまり、エスプレッソやカプチーノは、1000年にわたるコーヒー飲用の歴史の中では、まだ生まれて100年しか経っていない、新しいスタイルの飲み方と言えます。

 

 名前の由来は諸説ありますが、修道士さんの服を「カップッチョ」といい、その修道士さんに見立てて名前が付いたと言われています。こんもり盛り上がった泡が、修道士服とセットになっている帽子に似ていたとも言われますし、茶色いコーヒーの真ん中の丸く白い泡が、上から見た修道士さんの剃髪した頭(例:フランシスコ=ザビエル)のようだったから、とも言われます。

 

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 イメージを元に再現してみましたが、こんな感じですかね(笑)。言われてみれば、修道士さんの頭のように見えますね。

 

そして1985年頃。つまり約30年前。

 イタリア・ミラノのバールで初めてカプチーノの上に「ハート」が描かれました。茶目っ気のあるイタリア人ならではの遊び心といえるでしょう。ハートを描いたバリスタが、綺麗なお姉さんにドヤ顔でカップを差し出す姿が目に浮かぶようですね(笑)。

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 それがアメリカに渡って、シアトルを中心としたコーヒー店のバリスタ達の手により大流行。そののち、世界中に広まりました。

 

 イタリアでは基本的にエスプレッソでコーヒーが消費されますが、アメリカでは(エスプレッソでは物足りないのか)カフェラテで飲むケースの方が圧倒的に多いため、ラテアートが広まったという背景もあるのでしょう。

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※イタリアのコーヒー事情に関してはこちらもご参照ください。

イタリアのバール事情 ~ 愛されるエスプレッソ文化 ~

 日本では、1996年に東京・初台のカフェで提供されたのが最初と言われています。

 「目に見える形」で付加価値を出せるラテアートは、日本人のおもてなしの精神にもマッチしたのでしょう。SNSの普及にも後押しされ、大人気となりました。

 

 

 広く一般に認知されたラテアートは、バリスタの技術を競う各種の競技会も開催されるようになり、エスプレッソマシンの普及と共に、どの街のカフェでも見ることができるようになりました。

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「生まれてまだ30年」ということを考えると、ラテアートは凄まじい速さで定着したサービスと言えます。