エッチング・ラテアートの特徴
フリーポアと対をなす、ラテアートのもう一つの手法がエッチングです。
エッチング(Etching)はエッジングとも呼ばれ、もともとは銅版画・金属加工で使われた言葉です。
まず銅板に、腐触防止の薬剤を塗ります。その後、針などを使って銅板に文様を刻み付けます(つまり薬剤部分を削ります)。そして、その銅板を腐触させます。すると、銅板に傷をつけた部分(つまり防触薬剤が禿げた部分)だけが腐触することで、凹みが出来ます。
このようにして作った凹版で、版画を刷るわけです。これが本来の意味のエッチングです。
転じて、今は針のようなもので文様を刻み付けること自体を、エッチングと呼んだりもします。ガラス細工などで行われたりもしますね。
ラテアートにおけるエッチングも、これに準じています。つまり、針のような道具を使って、直接カプチーノやカフェラテの表面に絵柄を刻み付けるわけです。
フリーポアでは描けない絵柄、例えば動物やキャラクターなどを描け、視覚的な自由度が高く、人気のある方法です。
作り手の個性を出しやすい上に、文字なども描くことが出来るため、ラテアートを、よりメッセージ性の高い一杯にすることが出来ます。
日本では今、この方法でラテアートを作る人が増えているように感じます。
カプチーノにエッチングの方法で描かれたラテアートを、特に「デザインカプチーノ」と呼ぶこともあります。
特にインターネット上では、「デザインカプチーノ=エッチングの手法」と勘違いしている方もいらっしゃいますが、これは誤りです。
「デザインカプチーノといえば、使われている技術はエッチング」で間違いありませんが、エッチング自体はカプチーノではなくカフェラテでも、もっと言えば抹茶ラテや紅茶ラテに対しても絵柄を描くことが出来るため、「エッチング=カプチーノ」という式は成り立たないのです(エッチングにはもっと広い範囲が含まれるということ)。
つまり、「エッチングだけど、カプチーノではなくてカフェラテ。」ということも有り得るわけです(「デザインカフェラテ」や「デザイン抹茶ラテ」なんて聞いたことはないと思います)。
※ カプチーノとカフェラテの違いについてはコチラ
ですから、 「ラテアートという大きな括りの中にエッチングという手法があり、その中でカプチーノに対して行ったものを『デザインカプチーノ』と呼ぶこともあります」(呼ばない人もいます)というのが現実に即したデザインカプチーノに対する正しい説明です。
エッチング・ラテアートの方法
エッチングのラテアートには、まず何かしら絵柄を描くための道具が必要です。
一昔前は、カクテルピンや爪楊枝で描く人しかいなかったと思うのですが、今は商売上手な人が「ラテアートピック」という商品を作って売り出しています。
これを使わなければいけないわけでは全くなく、爪楊枝やカクテルピンで何も問題はありません。カウンタースタイルのお店とかで、「手元をお客様に見られた時に、こういうものの方が映えるな」と思ったら、用意したらいいと思います。(ちなみに僕も持っていますが、僕には線が太すぎるので使っていません)
身の回りにあるもの何でも使えます。アイデア次第です。写真は上から、金串、竹串、耳かき、目打ち、フェルト針、爪楊枝、編み針です。実際いろいろなもので描いてみて、自分が使いやすいものを使うといいと思います。絵筆なんかも試してみましたが、さすがに難しかったです。
やり方としては、まず注ぐ段階で、フリーポアである程度大まかな形を作っていきます。基本の丸が作れれば、色々な絵柄を描くことが出来ます。
フォームドミルクは、あまり空気を多く入れすぎてしまうと、描いている途中でどんどん泡が割れてフォームがボロボロになってしまいますので、気持ち緩め(カフェラテ寄り)に作ると描きやすくするコツです。
ここでは、熊のラテアートを描きます。丸を作って、その中にもう一つ丸を押し込んでいきます。
ここからはスピード勝負です。時間をかけると、どんどん表面の状態が悪くなってしまいます。周りの茶色いクレマの部分をインク替わりにして、楊枝などで鼻や目を描いていきます(ここでは竹串を使用)。チョコレートソースやシロップなどをインクとして使っても問題ありません。
小さなスプーンを使って泡をすくい、耳や手などのパーツにあたる部分を作ります。
何度も細かくピックを動かすよりは、出来るだけ一息に描いていった方が、ミルクの表面を傷めません。ピックをあまり深くまで沈み込ませず、表面にインクとなるクレマやシロップを乗せていくようなイメージです。「表面を荒らさない・傷めない」というのが、絵柄を長く残すコツです。
描くスピードを上げるためには、頭の中に描く絵がイメージ出来ていることがスムーズに仕上げるポイントです。そのためには、紙に絵を描いて練習する方法も効果的です。
「絵心が・・・」という人もいますが、正直、動物ぐらいのモチーフであれば、絵心うんぬんではなく、練習すれば誰でも描けます。「出来ないのは練習が足りないから」と思いましょう。
描く順番は自分が描きやすい順でいいと思いますが、動物を描く場合は鼻から描くと全体のバランスが取りやすいです。
また、動物は顔のパーツを全体的に中央に寄せ気味にすると、可愛らしい印象になります。
こちらに、クマのエッチングラテアート動画を掲載いたしました。ご参考までにご覧下さい。
フリーポアだけでは描くことが出来ない絵柄が描けるのが、エッチングの一番の魅力だと思いますが、あまり絵柄を描くのに時間がかかりすぎると、飲み物自体が冷めてしまいます。せっかくクリーミーに作った泡も割れていってしまいます。
「絵を描くことに時間をかけすぎて味が落ちてしまっては本末転倒であるので避けるべき」というのが、JBA(日本バリスタ協会)の指針です。僕自身、JBA認定バリスタですので、この立場にあるべきなのかもしれませんが、一方で、いち現場に立つサービスマンとして、凝ったラテアートのニーズがあること。そして、何よりお出しした時に物凄く喜んでいただけること(それこそ、味が落ちているとかはどうでもいいぐらいの)を見ると、「結局のところ嗜好品であるコーヒーなんだから、お客様が喜ぶのが一番」というスタンスでやっています。
絵柄の複雑さ(提供スピード)と温度(味)は常に反比例の関係にあることはきちんと理解した上で、「どこまでのクオリティのものを描きたいのか」の落としどころは、お客様のニーズと自分の理想の間で常にせめぎ合い。非常に難しいところですが、そこがまた、やりがいだと思います。
こちらに、エッチングの可能性を探る上で、「動物のラテアート、どこまで描けるか」をやってみた動画を作ってみました。是非ご覧下さい。
女子力の高い一杯で、お出ししたお客様に喜んで頂きましょう(笑)。
僕の代名詞でもあるフルカラー・ラテアートに関しては、次の項目で説明しています。