ラテアートの定義について、改めて少し考えてみました。
「ラテアートの定義って何だ?」という話になると、必ず意見が割れると思います。
まず一番狭義に捉える方の意見は、「フリーポア以外は認めない」(ピッチャー以外の道具の一切は使用不可)というものでしょう。
次に、「エッチングまでは認める」(ここまでが、コーヒーと牛乳以外の副材料は認めない派)。
そして、「チョコシロップを使ったシロップワークはOK」派。
「ココアパウダーを抜き型で振るステンシルも認める」派と続いて(このあたりからコーヒーと牛乳以外の副材料が入ってくる)、 「3Dはどうか?」「着色料を使うのはどうか?」「コーヒー以外をベースにすることはどうか?」「牛乳ではなく豆乳ではどうか?」といった段階になると、意見が徐々に割れてくるような気がします。
最近は、オブラードのようなシートにイラストが転写されていて、「あたたかい飲み物の上に載せるだけでラテアートが楽しめる」といったラテアート・シートという商品も出てきました。
これはラテアートと言えるでしょうか?というレベルにまでなってくると、かなりの賛否が分かれそうです。
「シロップワークはOK」の人でも、たとえばチョコシロップやキャラメルシロップはOKという認識でしょうけれど、「じゃあ黒蜜はどうですか?」と聞いたら、全員がOKと言うとは思えません。
僕がやっているフルカラーのものを「ラテアートとは認めない」という方も当然いらっしゃると思っていますし(というか実際おられますし)、一方で僕自身が「ラテアートと呼んでいいのかどうか疑問を感じている」という3Dラテアートは、既に一般認知がかなり進んでいるのも事実だと思っています(だからこそこうやって、このサイトでは他のラテアートジャンルと同列に取り扱っています)。
こういった問題はなぜ起きるかというと、「コーヒーが嗜好品だから」でしょう。
必要不可欠なものではなく、それぞれの好みによって判断する趣味性の高いものが嗜好品です。だからこそ、自分が「こう」と思えば「こう」であって、そこに正解も不正解もありません。
たとえば嗜好品の代表である「お酒」。
「大好き。毎日でも飲みたい!」という人もいれば、「あんなもの飲むなんて気がしれない。体に悪いだけじゃないか。」という人もいます。 「ビールは好き。でもワインの良さはわからない」という人がいるかと思えば、「ワイン以外の酒は受け付けない」という真逆の価値観の人もいるでしょう。
どちらがアルコールについての認識として正しく、どちらが間違っている、という問題ではないのです。
結局のところ、嗜好品というものはすべからく「個人の主観・好み=嗜好」に拠って立つものなので、その好み・認識・定義も非常に曖昧なものです。
アルコールの例を続けますが、最近は「梅のワイン」とか「桃のワイン」なんてのも出てきました。
「いやいや、ワインっていうのは葡萄を原料とした醸造酒ですよ。梅のワインなんて、ワインじゃありません。それは梅酒です。」というひともいるでしょう。
「いやいや、梅酒とは違います。だって梅酒は蒸留酒に梅を漬け込んで作るお酒でしょう? 梅ワインは梅を発酵させて、ワインと同じ製法で作ったお酒です。つまりワインの一ジャンルですよ。そもそも、ワインは原料が葡萄じゃなければいけないなんて法律無いじゃないですか。」という考え方もあるでしょう。
そう。紀元前から続く、飲料の歴史と文化の象徴であるワインですら、こうなのです。
まだ1000年のコーヒー飲用の歴史の、さらにまだ出来て30年しか経っていないラテアートで、
「ラテアートとは、エスプレッソベースのカプチーノに描かれたモノのみを言うのだ。抹茶ラテに描かれた絵など、ラテアートとは認められるか!」
・・・と目くじらを立てたところで、その言葉にどれほど意味があるというのでしょう?と思うわけです。
むしろ、「まだ定義が曖昧で当然」と考えるべきではないでしょうか?
具体例に使って申し訳ないのですが、京都の よーじやさんが経営されている、よーじやカフェの抹茶カプチーノ(銀閣寺店と祇園店の 限定商品。)。 これなんて「コーヒーよりむしろ抹茶推し」ですけど、道行く人100人に写真を見せて、これは何ですか?と聞いたら、多分過半数は「ラテアート」って答えると思います。
3Dラテアートもそうです。多分、これも大半は、3D「ラテアート」って答える気がします。
過半数を超えていたら、もう既成事実といっていいでしょう。コーヒー通が 何を言ったところで、世間のジャッジはラテアートに傾いています。
つまり何が言いたいかというと、嗜好品の定義は、社会や消費動向によって変わっていくものじゃないでしょうか?ということです。
その時々で意見が統一されることはなくても、その「最大公約数」が、定義となっていくのでしょう。
そして自分の意見と違うからといって、他人の意見を非難することは、嗜好品の世界ではタブーであると思います。法律や公序良俗に反していなければ、そして他人に迷惑をかけてさえいなければ、自分と意見が違ったところで、「むしろ違うことは当然」と考える方がトラブルもストレスもないでしょう。だから僕は、「あくまでフリーポア以外のラテアートは認めない」と主張をするのも、それはそれでアリだと思います。嗜好ですから。ただ自分の嗜好と違う意見を非難することは良くないというだけです。
ただ、大会とかには、一定の基準は必要ですよね。
現在、「コーヒーフェスト ラテアート世界選手権」は、「フリーポアのみ。コーヒーと牛乳以外の材料使用は一切禁止」がルールです。 スペシャリティーコーヒー協会が主催するワールド ラテアート チャンピオンシップ(日本ラテアートチャンピオンシップもこれに準拠)では、フリーポアの他にエッチングもOKで、コーヒー以外の副材料(チョコレートパウダーなど)を表面デコレーションに使うことも認められています。実際、大会で食紅を使うバリスタさんもいらっしゃいますから、着色料を使ったものも「ラテアート」とされているわけですね。
ただし、ドリンクの「表面デコレーション」に限ってのもので、ドリンクの中にコーヒーと牛乳以外の香料などの使用は0点とされていますから、抹茶ラテや紅茶ラテは「ラテアート」ではないという認識です(まぁ「スペシャリティーコーヒー」協会主催ですしね)。3Dはどうなんでしょう?やってる人見たことないから分からないですが、ジャッジで評価されるかどうかを別にすればルール上は問題なさそうですね(制限時間内に作れないと思いますが)。
現在の、ラテアートに関するメジャー2大会の定義は以上です。将来どうなるかは誰にもわかりません。 ラテアートを取り巻く環境は、この10年で劇的に変化しました。 そして今から10年後。ラテアートがどういうふうに変化していき、それがどういうふうに社会に認識されているのかな?と考えると、僕は楽しみに思えます。