ミルクのスチーム(泡立て)は、「①空気を入れる(ミルクのボリュームアップ)」 →「 ②対流で 攪拌させて気泡を潰し、細かくする(ミルクのテクスチャリング)」という流れで進みます。
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この時、出来るだけ①を短時間で済ませ、②の時間を長く取ることが出来ると、よりキメ細かいフォームドミルクを作ることが出来ます。
準備として、ミルクピッチャーと牛乳は冷蔵庫で冷やしておきます。
最初(スタート時)から牛乳やピッチャーの温度が高いと、目標温度(ゴール)まで早く到達してしまうため、②のテクスチャリングの時間が短くなってしまいます。ミルクとピッチャーが冷えていれば、スタートの温度が低いためにゴールまでの時間が長くなり、結果的に②の時間を長く取れるということです。
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忙しいプロの現場では、現実として毎回冷えたピッチャーや牛乳を使うことは難しいケースもありますが、十分な技術がないうちは特に、こういった技術以外のところで押さえるべきポイントはきちんと押さえましょう。
① まず、冷やしたピッチャーに冷えたミルクを注ぎます。
この時のミルクの量は最低でピッチャー容量の1/4、最高で1/2 です。それ以上でも以下でも、スチームがやりづらくなります。
(最大でこのあたりになるはずです)
理想は必要な量のミルクだけ泡立てることですが、スチームに慣れない頃は、ある程度の量があったほうが作りやすいものです。なぜなら、量があった方がミルクが目標温度まで上がるのに時間がかかるため、その分落ち着いて作業ができ、テクスチャリングの時間も長く取ることが出来るからです。また、ミルクの量が少なすぎると、ミルクが暴れてしまい対流が綺麗に作れません。
最初は多めのミルクで感覚をつかみ、慣れてきたら徐々に必要な分だけを泡立てられるように調整していくといいでしょう。
② ミルクの準備が出来たら、スチームノズルから蒸気を出して空吹かしを行います。
これは、前回のスチーム時に残った水蒸気がノズルの中で結露しているため、そのままスチームを行ってしまうと水がミルクの中に入ってしまうためです。水っぽいミルクになると、出来上がったカプチーノやカフェラテの味を損ねてしまいます。必ず空吹かしをするクセをつけるようにしましょう。
家庭用のマシンの場合は、完全に蒸気だけが出てくるところまで空吹かしを行ってください。
③ 空吹かしを行ったら、スチームノズルをミルクの中に1cm程「沈めてから」スチームを開きます。(スチームを先に出してからノズルを沈めようとすると、ミルクが飛び散ります)
ここから行う作業は、ミルクの「ボリュームアップ」です。つまり空気を取り込んで体積(ボリューム)を増やします。
④ スチームを開くと、ノズル先から出る蒸気で液面が凹みます。
ピッチャーの位置を徐々に下げて、「ミルクの液面とノズルの先が付くか付かないか」のポジションをキープします。
最初は「キーン」という音がし、その後「キュルキュル、チチチ」という音と共にミルクが空気を取り込んで体積(ボリューム)が増えていきます。(音は業務用の場合)
⑤ ノズル先とミルク液面の間に小さな隙間を作り、そこからミルクの中に空気を取り込んで体積を増やしていきます。
スチームを始めたばかりの人が「ミルクが増えない!」ということがありますが、これはノズルとミルクの間に隙間が出来てない(ノズル先がミルクの中に沈んでいる)からです。
単にスチーム(蒸気)を入れるだけでは、ミルクは温まるだけで体積は増えません。
この「ミルク液面とノズルの先の間隔調整ミス」が、スチーム初心者の方が最も陥りやすいミルクフォームの失敗原因 No.1 です。
⑥ 「チチチチ」という音とともに、ピッチャーを少しづつ下におろして空気を取り込みます。
ここでのポイントは、出来るだけボコボコの大きな泡を作らないことです。
そのために、ノズル先とミルク液面との距離は出来るだけギリギリを保つちつつ、ピッチャーを下げていきます。
ピッチャーを下げるスピードが早すぎれば、液面とノズル先端の間隔が開いてしまい、「ゴボゴボ」という音と共に沢山の空気が一気に取り込まれるので、泡が粗くなります。
ピッチャーを下げるスピードが遅すぎれば、「シュー・・・」という音がするだけで空気が入らず、ミルクのボリューム自体が増えません。
必ずミルク液面とノズルの先は「チチチ・・・」という音がする状態の、「付くか付かないかのギリギリ」を保つスピードでピッチャーを下げるようにしましょう。
ノズル先と液面の距離を判断するのに、音は重要なヒントになります。
この「空気を取り込んでミルクをボリュームアップさせる」作業は、その次の「攪拌」に出来るだけ長い時間を取るために、数秒(業務用マシンの場合)の短時間のうちに行います。温度で言うと、だいたい30~40度に到達するまでには完了させたい作業です。
⑦ 最初のミルクの量を1としたら、カフェラテなら1.2~1.3、カプチーノなら1.4~1.5ぐらいの量になるまで空気を取り込んで体積を増やしたところでボリュームアップを終え、ノズル先をミルクに沈めてテクスチャリングへと移ります。
カプチーノ寄りで仕上げると、たっぷりの空気を含んだミルクの、柔らかい口当たりを楽しむことができます。
フリーポアで繊細なラテアートを作りたいなら、あまり空気を沢山入れ過ぎず、カフェラテ寄りで仕上げた方が描きやすいです。(本来イタリアンカプチーノは、リーフを何本も作るようなラテアートをせず、リープ1本、ハート一発、というスタイルです。)
エッチングの場合、簡単な絵柄ならカプチーノでも十分描くことが可能ですが、もし細かい絵柄を描きたいなら、あまり空気を入れすぎない方が描きやすいでしょう。
このあたりの「どこまで空気を取り込むか」は、何度も練習を重ねることで感覚を身につけましょう。
⑧ ここから先のテクスチャリングでは、一切空気を入れる作業は行いません。空気を入れないので、チチチといった音はしません。「シュー…」という蒸気の出る音がするだけです。
絶対にノズルの先をミルクから出さず、位置を固定し、ただ「ミルクの中に綺麗な対流を起こして撹拌し、泡を潰して細かくしていく」作業です。
ノズルのポジションは、「ピッチャーの直径を3等分した円周上のどこか」が、個人的にはやりやすいと思います。
(この赤い円周上のどこかです。マシンやピッチャーに合わせてミルクが綺麗に回る位置を見つけましょう。)
この時のスチームバルブは全開で開きます。マシンのパワーが強すぎる場合を除いて、基本的に全開です。蒸気圧が弱いと対流も弱くなり、泡がきちんと潰れず、きめ細かいフォームドミルクになりません。
ノズルを立てて挿入しミルクを対流させ、縦方向の回転を生み出すと、ミルクが攪拌されて泡が細かくなっていきます。ノズル角度を寝かしすぎてしまうと、ミルクは横向きにぐるぐる回るだけで、泡が潰れて(細かくなって)いきません。ミルクをピッチャーの底に当てる対流で泡を潰していく感覚です。
スチームパワーのある業務用マシンの場合は、気持ちノズルに角度を付けて「縦に近い斜め」気味の回転を。スチームパワーの弱い家庭用マシンの場合は、出来るだけノズルを立て、少し深めに差し込んで縦回転させると綺麗に泡が潰せると感じます。
⑨ ピッチャーの持ち手と反対側の手で、ミルクピッチャーを支えながら手のひらの感覚で温度を測っていきます。
適温になった所でスチームを止め、完全に蒸気が止まってからピッチャーを抜きます。
この、「適温」はバリスタの好みや客層に合わせて変化はしますが、多くは「60℃~65℃」で、最低が55℃、最高で70℃です。この温度帯が、ミルクが粘度を持ち、かつ甘みが旨味に変化し、美味しさを感じやすい温度だからです。
タンパク質は45℃ぐらいから熱変性を始め、55℃を超えたあたりで活性化し、フォームドミルクに粘度が出て「とろり」としたミルクになります。65℃を超えたあたりからミルクの風味が飛んでしまうと同時に泡が粗くなっていき、舌触りも悪くなっていきます。乳清タンパク質の凝固温度は72℃です。これを超えるとタンパク質凝固がはじまり、水分が分離したり、泡立ちがどんどん粗くボソボソになっていきますので、目一杯まで上げたとしても、70℃が限界でしょう。ちなみに僕は63℃で仕上げています。
人間は、人肌前後の32℃~42℃の間で最も強く甘みを感じます。これより温度が上がると甘みの感じ方は緩やかに下がりますが、甘みを「旨味として」感じるようになり、また、コクへと変化します。
ひとが何かを口にして美味しいと感じる温度は、体温の±25℃、つまり温かいものであれば62度から70度、冷たいものであれば、5度から12度とされています。
以上から、ミルクのスチームの適温は、「60℃~65℃」と言えます。ちなみにフリーポアのラテアートで細かい絵柄を描く人は、低めの温度で仕上げる傾向があります。
スチームの練習にあたって、最初の段階では「必ず温度計を使って温度を測り、体に温度感覚を染み込ませる」ように練習しましょう。
「70度以上まで上げてしまう『オーバースチーム』によって、ミルクの泡が荒くなってしまう」又は「温度が低すぎてミルクの粘度(とろみ)が出ない」というミスが、スチーム初心者の方が最も陥りやすいミルクフォームの失敗原因 No.2です。
試しにわざとオーバースチームを起こしてみると、ボソボソして大きな泡が出来ていくのが分かると思います。
繰り返し練習すれば、人間の感覚というものは不思議なもので、温度計無しでも誤差なく作れるようになります。
⑩ ミルクのスチームが終わったら、ノズルの先端についたミルクを布巾できれいにして、再度空吹かしを行います。
スチーム終了時にノズルがミルクを吸い上げてしまうので、ノズルの中に残ったミルクがノズル自体を劣化させてしまったり、長い時間放置すればミルクが腐敗し、ノズルの衛生状態が悪くなります。空吹かしを行うことで、ノズルの中のミルクを排出しましょう。
空吹かしの後でノズルを拭こうとすると、ノズルの熱でミルクがこびりついてしまい、綺麗に拭けません。拭き上げを行ってから空吹かし、の手順です。
※ 実は最近は、拭くという行為自体が衛生的ではない (布巾には雑菌が繁殖しやすいから) という考え方から、空吹かしのみを行い、拭き上げを行わない人も出てきました。特に海外のバリスタに多いようです。僕は個人的には拭かないと落ち着かない(笑)のですが、確かに理には適っています。このあたりの考え方はバリスタの判断に依るところだと思います。
⑪ その後、ピッチャーをトントンと作業台に打ち付けて大きな泡を潰し、クルクルと回転させて、ピッチャー内のミルクと泡を空気に触れさせると共に、ミルクの上下を均一になじませます。
こうすることでガラスのような光沢を持ち、視認出来ないほど細かい泡の、シルクのようにキメ細かいミルクフォームが完成します。
スチームが上手く出来ないという人の中には、「ここで泡を潰して細かくするんだ!」とばかりに頑張ってトントン・クルクルをしている人もいるのですが、ミルクのフォーミング作業は、マシンの蒸気を止めた段階でほぼ終了しています。
上手くスチームが出来れば、蒸気を止めた時点でピッチャーの中に大きな泡はほとんど存在していませんし、そのまま注いでもラテアートが描けるほどに、十分細かいフォームになっています。
最後の「トントン・クルクル」はあくまでも最後の仕上げ。ここで挽回するのではなく、その前の「スチームでの泡づくり」に意識を集中するように心がけましょう。
その他、よく受ける質問で、「余ったフォームドミルクはもう一度使えるのか?」というものがあります。
スチームを行った牛乳は、スチーム前と比べて約10%ほど水分が増えています。つまり牛乳が水っぽく薄まっていますので、味の面で言うなら、その都度新しいものを使うことがベストです。
ただ、現実問題として、例えば飲食店の店舗では注ぎ足し、注ぎ足ししながら使っていることも普通にあります(本場イタリアのバールでは、ピッチャーを洗うこともなく、継ぎ足しながらずっと一本のピッチャーで作り続けます)。この場合は、「余りミルクをあまり出さないような、必要最小限のスチーム」が出来ることが望ましいです。
味を重視するという理由から、余ったミルクは破棄して、その都度新しいものを使用するケースもあります。チェーン店舗では、多数の従業員が食材を扱う衛生管理上の観点で破棄ようマニュアル化することもあります。
では家庭ではどうしたらいいかというと、余ったミルクを捨てるのはもったいないので、そのまま飲むか、アイスラテなどに使うというのが一番かと思います。
シチューやグラタンなんかの料理に使うのもいいでしょう。フォームドミルクに再利用するのであれば一旦冷やすと使いやすくなりますが、一度スチームした牛乳は傷みやすくなっていますので、早めに消費するように心がけて下さい。また、72℃以上にオーバースチームしてしまった牛乳は、タンパク質が変性してしまっているので、フォームドミルクとして再利用することは難しいです。
業務用マシンによるミルクスチームの一連の流れを動画で掲載しておきますので、参考にご覧下さい。
また、家庭用エスプレッソマシンによるミルクのスチーム動画も掲載しておきます。
業務用マシンと比べてパワーがないので、すべての工程で時間が長めにかかります。特にボリュームアップ時のピッチャーの引き下げは慎重に行う必要があります(業務用と比べてパワーが無いので、一度粗い泡を作ってしまうと潰すのが大変だからです)。
出来るだけノズル先をピッチャーの外側に配置し、ミルクを縦に回すイメージでやると、綺麗なフォームになるかと思います。
この2つの動画でも、ノズル先の位置とミルクの回転が違うことがわかっていただけるかと思います。
また、マシンによって最適なノズル位置は結構違いますので、やりやすいポジションを色々と探ってみてください。