フリーポア(Free Pour)とは? ~ その魅力 ~
フリー(何も使わず)ポア(注ぐ)という意味で、ミルクピッチャー(ミルクジャグ)からミルクを注ぐ動きが生み出す対流だけを利用して絵柄を描くラテアート技術です。
ラテアートはイタリア・ミラノのバリスタがハートを描いたのが最初と言われますので、元祖にして王道といえるテクニックです。
シンプルなだけに誤魔化しがきかず、技術の差が顕著に表れます。ラテアート系の世界大会の一つである「コーヒーフェスト・ラテアート選手権」の競技種目は、フリーポアのみです。
フリーポアの魅力は、まず絵柄が万人に好まれる点です。エッチングで描いた絵は、描き手の絵柄によって好みが分かれるかもしれませんが、フリーポアで描かれる代表的な絵柄、「ハート」や「リーフ」は誰もが美しいと感じるでしょう。
2番目は味です。フリーポアで美しいラテアートを描く為には、良い状態のエスプレッソ抽出が求められます。綺麗なクレマがあって初めて、フリーポアは美しいコントラストを生み出します。そしてミルクのフォームがキメ細かい状態でなければ綺麗なラテアートにはならず、それは口当たりの良さにつながります。エッチングと比べて短時間で提供が可能なので、温度の低下や泡の劣化も少なくて済みます。フリーポアの美しいラテアートは、味という面において「エスプレッソの質」「フォームドミルクの質」「提供温度(スピード)」の3つが約束されているといえます。
フリーポアの3つ目の魅力は、技術の可能性です。このジャンルのトップレベルのバリスタは、注ぐだけの技術で本当に様々な絵柄を生み出します。「ここまでのことが出来るのか」という感動が、その魅力として挙げられるでしょう。
フリーポア・ラテアートの原理とコツ
フリーポアのラテアートは、エスプレッソに注いだフォームドミルクを表面に浮かべることで、絵柄を作ります。
前提として、「エスプレッソの適正抽出」と「綺麗なフォームドミルク」が出来ているものとします。
フリーポアは、特にフォームドミルクの質が出来上がりを大きく左右します。
※ミルクのフォーミングに関してはこちらのページを参考にしてください。
ミルクが空気を含み過ぎていると、表面はフォームで真っ白になってしまい、ラテアートが描けません。
逆に空気の含ませ方が足りなくても、ミルクは液体(スチームドミルク)に近い状態なので表面に泡が浮かず、同じくラテアートが描けません。
また、泡が粗いフォームでも、綺麗なラテアートにはなりません。
「適正な量の空気を含んだ、キメ細かいフォームドミルク」が出来ていることが、必要条件です。
その上で、まずはフォームドミルクを浮かべる基本を理解しましょう。
ミルクを高いところから注ぐと、ミルクは勢いがついて垂直に入り、クレマの下でエスプレッソと混ざってフォームは浮きません。
低いところから注ぐと、ミルクはゆっくりと液面に対して斜めに入り、比重の軽いフォームが表面に浮かびます。
この、「注ぐ位置の高低によってミルクを狙ったところに浮かべる」ことが、フリーポアのポイントその①です。
次に、ミルクを浮かべる際にピッチャーを傾ける時の角度です。
ピッチャーを深く傾ければ、フォームドミルクは太く注がれ、広い面積にミルクが浮きます。ピッチャーを傾ける角度が浅ければ、フォームドミルクは細く注がれ、線のような浮き方をします。
※ 傾け方が浅すぎると、液体のミルクだけが注がれて、泡が浮きません
このように、「ピッチャーを傾ける角度(と位置)で、ミルクの浮かばせ方を調節する」ことが、ポイントその②です。
上記2点を押さえておけば、あとはピッチャーの動かし方だけで基本のフリーポアは描けます。
ラテアート本などでは、「カップを45℃の角度で持ち、徐々に水平に傾きを戻して…」と書いてあったりするので、「カップを持つ手の動きも重要なのでは?」と思うかもしれませんが、「その方がやりやすい」というだけです。
複雑な手数のラテアートならともかく、実際はピッチャーを持つ手の動きさえコントロール出来れば、ハートやシングルリーフぐらいなら、カップはテーブルに置いたままでも描くことが出来ます。
失敗する原因もピッチャーを持つ手のコントロールミスが大半です。特にビギナーが陥りがちな例は、恐る恐る注いでしまい、ピッチャーの傾け方が浅くなって、液体のミルクしか注がれず、フォームが浮かばないというものです。
「失敗しないように・・・」とビビりながらやると大概上手くいかないものですので、何度も練習を繰り返して、自信をもって注げるようにしましょう。
キャンバスづくりと、基本の「丸」
それでは実際に、フリーポアの流れを、基本の「丸」を落とす工程を例に見ていきましょう。
エスプレッソを抽出して、ミルクをスチームします。
ミルクは注ぎに入る直前までピッチャーをスイングし、ピッチャー内をよく混ぜてツヤのある状態にしておきましょう。
【 まずはキャンバス作りです。これは全てのフリーポア・ラテアートに共通します。】
① カップを斜め45度の角度で構えます。
② 高いところ(カップから5~10㎝離した所)から、「エスプレッソの一番深い所に差し込む」ようなイメージで、真っすぐミルクを注ぎ入れます。
③ もしここで泡が浮いてシミが出来てしまったら・・・
④ シミの上からミルクでなぞると、シュッとシミが押し込まれて消えてくれます。
⑤ ちょうど良い高さまで来たら、キャンバスの完成です。
「ちょうどいい高さ」というのは、この後、どのようなラテアートを描くかによって変わります。
ハートや丸のような手数の少ないラテアートを作るなら、キャンバスはある程度の高さがあって大丈夫です。複数のモチーフを組み合わせるような手数の多い複雑なラテアートを作るのなら、キャンバスは出来るだけ低い位置で仕上げます。
※ 上図のように、キャンバスを作るときに注ぐミルクは一点にしてもいいですし、回して入れてもいいです。回すことの意味は、キャンバスを全体に均一にしたり、クレマを適度にミルクで「揉む」ことで柔らかくするためです。
このまますぐにモチーフにを描き始めてもいいのですが、この時点でカップの中でミルクが回転しているようなら、一呼吸置いてからモチーフに入った方がいいです。
ミルクの回転に流されて、モチーフが流れたり、中心からズレてしまったりするからです。
【 ここから丸を描きます 】
① キャンバスが出来たら、ピッチャーをミルクに近づけます。フォームドミルクが液面に浮かびます。
※ここでミルクが浮かばなかった場合に考えられること
・ピッチャーの近づけ方が甘い
・フォームドミルクが緩い(泡が少なく液体に近い状態)
・注ぐ前のピッチャーのスイングが甘い(フォームドミルクとスチームドミルクが分離していて、スチームドミルクばかり注がれている)
・ピッチャーの傾け方が甘い(スチームドミルクばかりが注がれている)
・キャンバスが固い(クレマが厚すぎる、キャンバスの高さが低い)
② そのまま位置をキープすると、注ぎ口を中心に、フォームドミルクがぐるりと巻き込みます。
ここでピッチャーを奥に切ればハートになりますが、今回は丸なので手前に引きます。
③丸くなったらピッチャーを持ち上げて、丸の完成です。
この「丸」が出来ると、色々なラテアートが出来るようになります。
それでは、一連の流れを動画で確認してみましょう。
ハートのラテアートの作り方
ハートのラテアートの作り方です。
次のページをご覧ください。
リーフのラテアートの描き方
リーフのラテアートの作り方です。
次のページをご覧ください。
【Coming Soon】
チューリップの描き方
チューリップ系のラテアートの作り方です。
次のページをご覧ください。
【Coming Soon】
家庭用のマシンや、ミルクフローサーで作るときの注意点
家庭用のマシンでフリーポアのラテアートを作るときの最大のネックとなるのが、家庭用マシンは「エスプレッソを抽出するのと、スチームを作るまでの間にタイムラグがある」という点です。
機種にもよるのですが、家庭用マシンの限界として、
① エスプレッソ抽出をして
② スチームモードに切替え
③ スチームが安定して(最初は水が出てきて、そのあと蒸気が出てくるようになる)
④ スチームを行う
・・・と、フォームドミルクが出来た頃には、最初に抽出したエスプレッソは既にクレマが消えてしまっている。ということも、ままあります。これが業務用のマシンであれば、抽出とスチームを同時に行え、かつスチームも20秒ぐらいで作れるわけですから、この差は大きいのも事実です。
これを解決するために、僕の友人は抽出用とスチーム用で、家庭用のエスプレッソマシンを2台買っていました。2台を同時起動することでタイムラグを無くすわけです。「アホや(笑)」と最初は思いましたが、セミコマーシャルマシンを1台買うより全然安く上がるので、「意外とアリかも!?」と、後で思ったものです。まぁこれはちょっとイレギュラーな案だと思います。
では、スチームを先にすればいいかというと、こちらは正直おすすめしません。フリーポアで最も大切なのはフォームドミルクのクオリティです。
泡立ててから時間が経ってしまったフォームドミルクは、水分と泡が分離してしまいます。この状態では、いいクレマのエスプレッソがあったとしても、綺麗なラテアートを作ることは困難です。
なので、家庭用マシンでラテアートを作る際は、ベースになるエスプレッソが先、スチームが後。で作るべきでしょう。
エスプレッソマシンがなく、ミルクフローサー(ハンディーフォーマー)をでフォームドミルクを作るときも、
① ミルクを電子レンジか鍋で温める
② ベースになるドリンクを用意する
③ ミルクを泡立てる
・・・の順で行うといいと思います。ベースドリンクがインスタントコーヒーやココアであるケースが多いと思うので、クレマという概念がそもそも存在しません。
そう考えると、どちらのパターンもクレマがない状態でラテアートを行うことになるわけですが、実際のところ、クレマがないとラテアートが出来ないかというとそんなことはありません。コントラストが薄いものになるのは事実ですが、ちゃんと描くことは可能です。